AAGIが柏崎市の日常生活用具給付の対象として認定されました
AAGI (Augmentative and Alternative Gesture Interface: 補強・代替ジェスチャインタフェース)が、柏崎市の日常生活用具給付*の対象として認定されました(2023年4月1日)
*障害者総合支援法における日常生活用具給付等事業
要約
運動障がい者に対する非接触型スイッチシステムである補強・代替ジェスチャインタフェース(AAGI)が柏崎市で障害者総合支援法における日常生活用具給付対象として認定されたことを報告します(2023年4月1日)。
AAGIは、使用者の小さな動きを市販の3Dカメラで認識し、自分自身のパソコンへの入力や周囲の環境制御を行うアプリケーションシステムです。検出精度が高く、セットアップが簡便で、非接触で使用するというコンセプトで開発されたものです(報告書参照)。
今回、国立病院機構新潟病院(柏崎市)に入院中の患者さんを中心に長期の実証の結果が得られたことで、柏崎市により日常生活用具給付の対象として認定されました。この実績を基に、今後、全国の自治体での同様の認定が期待されています。
このAAGIは一度セットアップすれば、移動して場所へ戻ってきても再現性良く使用することができます。また、AAGIを用いることで、障害者が「遊ぶ」「学ぶ」「働く」などの社会参加の促進を進めることができます。今回の認定を契機に全国、世界へ広げてまいります。
1.はじめに
この度、重度の運動障がい者に対する非接触型スイッチシステムである補強・代替ジェスチャインタフェース(AAGI)が柏崎市で日常生活用具に認定されたことで、世界で先駆けて柏崎在住の患者に自治体が給付できる運びとなりました。
本スイッチ(AAGI)は国立病院機構新潟病院臨床研究部医療機器イノベーション研究室において、西田大輔(同主任研究員・リハビリテーション科医師)が東海大学医学部専門診療学系リハビリテーション科学、国立精神・神経医療研究センター身体リハビリテーション科、国立障害者リハビリテーションセンター研究所・障害工学研究部、産業技術総合研究所・人間情報インタラクション研究部門と共同研究・開発を行い、国立病院機構新潟病院に入院患者さんを中心に長期に日常生活用具としての性能の実証を行ったものです。
2.開発の背景と本システムの必要性
重度の運動障がい者は運動機能の低下(筋力や体力低下)によりパソコンなどのマウス、各種機器のリモコンだけでなく、障がい者用のパソコン入力スイッチの使用も困難になることが多く、社会参加上の問題でした。この様な障がい者に適合できるスイッチインターフェースの開発が待たれていました。
3.AAGIの開発コンセプト
本スイッチの開発コンセプトは高精度、簡便、非接触のコンセプトで2012年から開発を開始しました(参照)。市販の3Dカメラ(例えば、インテル® RealSense™ デプス・カメラ等)と独自に開発したパソコンのAAGIアプリケーションで制御することで非接触、非拘束インタフェースを実現しました(登録特許および登録商標については文末を参照)。30cm-1m程度の距離から3次元カメラで捉えることで使用者の小さな動きを精度良く認識することができます。動作は「頭の動き」「ウインク」「口・舌」「指の折り曲げ」「膝の開閉」「足踏み」「手前に動かす」「微細な動き」の9つの動作認識モジュールを用意しています。この認識した動作をパソコンへの入力(キーボード操作)を行い直接パソコン操作したり、パソコンからリモコンへ接続し部屋の照明をつけたり、エアコンをつけたりなどの周囲の環境制御を行うことができます。
AAGIの初期設定は最初に使用する際にその方が可能な運動に合わせて適切な運動認識モジュールを提案し、動きのキャリブレーションを行うことで可能となります。セットアップは概ね20-40分程度でかかります。一度セットすると、その場から離れても、元の場所へ戻ってくれば、再現性良く使用可できます。
4.AAGIを使用して社会参加、そしてノーマライゼーションにつなげる
実際に、国立病院機構新潟病院に長期入院中の運動障がいの方の使用を紹介します。人の生活は社会との関わり、「社会参加」により広がりを持っていきますが、大別して「遊ぶ」「学ぶ」「働く」に分けられます。このような社会参加がAAGIを使う事で安定してできるようになりました。
■ 実際の使用例 (使用者ご本人の同意によりビデオ画像を紹介します)
動画リンク先
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AAGIを介してパソコン操作を行うことにより、バーチャル空間で身体性を得て社会参加ができます。例えば、国立病院機構新潟病院に入院中の30歳代の使用者(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)はパソコンのレースゲームの「マリオカート」を通信対戦モードで行い、世界中からの参加者を募ったり、妹さんと20年ぶりにレースを行ったりして、身体障がいを克服して活動できることを実感しています。また、仮想世界を作るゲーム「マインクラフト」で街を作り、院内や院外の仲間を募ってその世界で生活をしています。また別の在宅生活中の使用者(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)は就労として、パソコンの音声ソフトを用いて会議録の文字起こしを行なっていますが、AAGIを使用することで、入力スピードが2.5倍に上昇し、仕事量を容易に増やせる事ができました。
■ 使用者の声 (使用者ご本人の同意によりビデオ画像を紹介します)
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今まで行う事が困難となっていたレースゲームが20年ぶりにできた
→反応の速い動作に正確に対応
介助者に頼らず本人自身でスイッチの使用をコントロールできる
→自立して用いることができる
スイッチ使い世界との対戦、妹さんとゲーム対戦ができるようになった
→社会へつながるきっかけのツールになり、ノーマライゼーションの促進ができる
■ 携わった支援者から見た使用者の変化の様子
国立病院機構新潟病院作業療法士 早川竜生OTによるコメント
動画リンク先
やってもらおうとするのではなく誰かの役に立つ
ゲスト(Guest)からホスト(Host)へ → 主体的なスイッチを手に入れることで
受け身から自主的に動く姿勢へ変化があった
このように対戦レースゲームなど用いられるのはAAGIの精度と反応が良好であり
操作性が優れていることの証左となっていると考えられる。
5.本システムの社会へ与える影響と今後の展望
今後、就労支援ツールとしても積極的に導入し、仕事での使用、学校教育現場での学習支援、生活の場で利用を広める予定です。現在、研究協力者として使用している方には、実用的な道具として提供を行いたいと考えています。現在まで60人を超える利用者が試用され、長期使用の利用者は10名程度となりました。国外では、イタリア、イギリスやフランスなどでデモンストレーションを行い世界で使ってもらえるように活動を開始しています。
今回、実用化成功の証として、柏崎市が世界で初めて、日常生活用具給付の対象として正式に認定したことは、大きな一歩であり柏崎から全国へ、そして世界へ展開できると考えられます。私達の研究グループは一丸となり、重度の運動障がい者のノーマライゼーション、社会参加を促進するツールとして提供する予定です。
6.参考資料
AAGI ホームページ http://gesture-interface.jp/gesture-interface/
7.柏崎市の住所を持つ市民の方でご利用希望の方
国立病院機構新潟病院リハビリテーション外来に地域連携室経由で受診予約してください。
連絡先 〒945-8585 新潟県柏崎市赤坂町3番52号
TEL 0257(22)2126(地域医療連携室)
柏崎市在住以外の方は、今後他の自治体も認定していくことを期待していますが、現時点では、研究協力での利用のみ可能です。
8.知財について
登録特許:「ジェスチャ認識装置、システム及びそのプログラム」
登録番号:6460862
登録日:2019/01/11 国立研究開発法人産業技術総合研究所
登録商標:AAGI(日本、欧州、米国、2019年出願登録済)、 Gesture Music(日本、欧州、米国、2019年出願登録)国立研究開発法人産業技術総合研究所
本稿の作成者:西田大輔(2023年4月1日)