研究班情報

ロボットスーツによる神経難病への新たなリハビリ治療

ロボットスーツによる神経難病への新たなリハビリ治療

HAL®医療用下肢タイプを用いた多施設共同医師主導治験 [研究者] 国立病院機構新潟病院 / 中島 孝

HAL®とは

HAL医科用下肢タイプ

HALは腰から足にかけて装着するロボットスーツです。ロボット自体が自律的に動くわけではなく、装着した人をその人の運動意図を使い、力学的にサポートする役割をにないます。

装着した人の動きたいという思いを読み取って、正しい動きをサポートしてくれる新しい仕組みのロボットなのです。HAL によるサポートを得ながら歩行訓練を繰り返すことで、HAL を脱いだ状態でも動作や歩行機能が改善することがわかっています。

※ HAL(Hybrid Assistive Limb)、ロボットスーツ、HAL医療用下肢タイプなどの用語はすべてCYBERDYNE社の商標

どんなメカニズム?

なぜ人とロボットは一緒に動けるのでしょうか。開発された「HAL」というサイボーグ型ロボットは脳由来で下肢が歩行のために「動く」ための信号を皮膚の表面から、実際に動く前に読み取って動く仕組みになっています。手や足を動かすなどの目的動作が不自由な方等が、動作がしっかりとイメージできていなくともプログラムされた自然な動きを再現してサポートする仕組みです。

人が動くための一連の流れ HALが動きを再現してサポート

HALのこれまで

ロボットスーツHALは1998年に学会で発表されてから、様々な業界から注目を浴びてきました。生みの親である山海嘉之教授はロボットスーツを使う人のリアルな声を聞き、研究開発を続けていきたいという想いで会社を立ち上げました。

HALのこれまで

2005年、中島孝医師は、治療がむずかしく慢性の経過をたどる神経筋難病に対して、装着型ロボットスーツHALの医療機器化を目指す共同研究を始めました。2011年からは中島孝医師主導で、医師主導治験の準備が始まり、2012年から2014年にかけては、難病に対する医療機器実用化の事業が厚生労働省から認められました。さらに2015年には新たに難病法が成立し、難病患者を対象とした治療の試験が進みました。

そして2016年、HAL医療用下肢タイプは、世界で初めて神経筋8疾患に対して医療保険の適用が認められました。

難病法成立で大きく動き始める

難病法の患者さんに対する影響

2014年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が成立し、2015年1月1日に施行されました。

これによって、難病に対して安定的な医療費助成の制度が確立されました。医療費助成制度の対象が大幅に増加したことは、指定難病患者へのHALを用いたリハビリ支援の可能性が広がりました。

平和のために

平和のために

HALというロボットスーツは、病気で体が動きにくくなった人の助けになるために作られました。開発した山海教授と中島医師は、「この技術が悪いことに使われないように、最初からしっかり考えるべきだ」と考えていました。

HALを使えば、体の働きをとても強くできるため、スポーツ選手や兵士の力を上げる「体の改造」にも使えてしまいます。だから、研究の始まりから「倫理(正しい使い方)」についての話し合いを続けてきました。会社の中にも「平和倫理委員会」というグループを作り、研究チームには哲学者や患者さんのサポート団体も加わって、いろいろな立場から意見を出してもらいました。

HAL の技術は、医療以外の分野でも注目されていますが、本来は病気やけがで体が動かしにくくなった人たちを支援するために開発されました。開発者たちは、そのような人々の心と体の両面を支えることにこそ、この技術の意義があると考えています。

保険適用が認められた10の難病

HALというロボットスーツは、体がだんだん動かなくなる難しい病気の人たちのために作られました。こうした病気は、遺伝子の問題や感染症が原因で、現在では薬でしっかり治すことが困難です。これらの病気が進むと、歩くことや立つこともできなくなり、自分で生活するのがとても大変になります。そんな中、HALを使って歩くリハビリを何度も安全にくり返すことで、歩ける力が少しずつよくなることがわかってきました。さらに、続けることで病気の進み方がゆっくりになることも確認されました。こうした成果が医学的にも認められ、HAL は医療機器として国から承認され、保険の対象にもなりました。

HALによる治療対策の10の疾患
イメージ

医師主導治験の役割と国際展開

中島医師は、最初に軽い脊髄のけがや、進行する神経の病気の患者さんに対して、福祉用のHALを使って歩く練習をする研究を始めました。HALを使うと、体にあまり負担をかけずに歩く力が少しずつよくなることがわかってきました。でも、HALが正式な医療機器として使えるようになるには、「本当に効果がある」という科学的な証拠を見せる必要がありました。そこで中島医師は、筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症など難しい病気を持つ人たちを対象に、大きな病院でチームを組んで治療の試験を行いました。この試験では、どの病院でも同じ方法でHALを使うやり方を決めて、安全で効果があることを証明しました。

その結果、HALは2016年に日本で「新しい医療機器」として正式に認められ、保険も使えるようになりました。さらに、別の難病に対する治験も成功して、2023年には保険の対象が広がりました。アメリカでも日本の治験データが使われ、HAL はアメリカでも医療機器として認められました。そして、小さい子ども(身長約100cmから)も使える小型HALが、2025年1月に新たに承認されました。いま、HALは世界でも使われる標準的な医療機器になりつつあります。

治験体制
【研究成果】2012年から始まり2016年に承認
HAL医療用下肢タイプは医療機器として世界で初めて神経筋8疾患に対して医療保険の適用が認められました。

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